3月6日(水)、 令和 5 年度文化庁委託事業 「地域別劇場・音楽堂等職員<アートマネジメント>研修会( 関東甲信越静地域)」 が国立劇場・伝統芸能情報館レクチャー室で開催されました。
公共の劇場・音楽堂等における「伝統芸能の企画・制作」 への取り組みの在り方について、 そのモデルケースとも言える二つの事例紹介と質疑応答・ 総括という構成の3時間…総括のコーナーに、コメンテーターとし てお招きいただき登壇しました。
千葉県文化振興財団、文化振興グループのグループ長・ 糸日谷智孝氏が、 劇場系伝統芸能の普及を目的に取り組んでいる邦楽、 日本舞踊のワークショップ、 地元の大学他と連携して創作する狂言など、 多彩でありながら丁寧に組み立てられたプログラムを紹介されまし た
続いて、 神奈川県立青少年センターが発信する伝統芸能普及啓発事業「 かながわ伝統文化こども歳時記」について、 ご担当の藤岡審也氏がご紹介。 地域の郷土芸能への取り組みの事例を、 その目的と方法と共に抱えている課題も含めて“ありのまま” を伝えておられました。
ゆっくりと育まれ熟成された有用な様式をいかに継続するか… 伝統文化のもつ価値観を、能率・ 効率や変化が最優先される現代社会にいかに伝え共有するか、アイ デンティティに関わる大切なテーマであるにも関わらず、正直、 未だに光明を見出せずにいます。少なくとも集客=採算、 つまり興行的な発想では如何ともし難いため、伝統芸能の企画・ 制作に携わる者の視点からは、 自治体や国が推進する公共の文化事業こそ、最大・ 最強のパートナーとして明瞭に映るのです。
今まで数多くの地域、また公共施設の皆さまとご一緒させていただ いたことを振り返ると、文化事業という角度から伝統芸能に取り組 む際のポイントは以下の3点ではないかと思っています。
◇描かれた成果目標に向けて、「継続」 を旨とした文化政策的視点が加味されていること。
◇伝統芸能の展開に不可欠なコンセプトである〔伝承・普及・ 創造〕…そのいずれかが設定されていること。
◇ 地域や施設に相応しいジャンルやアーティストが選択されているこ と。
少々堅苦しい言い回しになりましたが、要は伝統芸能の「楽しい、 面白い、カッコいい」、この三つの要素をいかに抽出し、 その価値と共にいかに伝えてゆくか… コメントとしてはこのような内容を申し述べました。毎度“ 言うは易し”ではありますが、 課題と向き合いながらも取り組み続けている千葉県文化振興財団や 神奈川県立青少年センターのような事例に接して、 刺激と共に多くの学びをいただいた思いです。
今回のように、 伝統芸能が抱えるテーマに対して実戦的な側面からセミナーを開催 できるのは国立劇場の皆さまならでは、と受けとめています。 伝統芸能の殿堂として、蓄積された情報と展開に向けた方法論、 人脈、アーカイブなどを豊富にお持ちなだけに、今後、 各地の劇場・ 音楽堂等と良質な関係性が構築されることを願ってやみません。