コンテンポラリーダンス×義太夫節

コンテンポラリーダンスの拠点〈神楽坂セッションハウス〉。そのレジデンスカンパニーとして活躍するMademoiselle Cinema(マドモアゼル・シネマ)の30周年を記念して、「ダンスブリッジ 明日に架ける橋」という公演が4回シリーズで行われています。

11月11日(土)12日(日)【女義太夫×マドモアゼル・シネマ 街と架けあう神楽坂橋/時層を超えてー響き渡る声・響き合う体/『生写朝顔話』明石船別れの段~大井川の段より】が二日間、3公演上演されました。

7名の女性コンテンポラリーダンサーの皆さん、朗読の松本大樹さん、女流義太夫の太夫:竹本京之助、三味線:鶴澤賀寿のご両人…それぞれが“真剣勝負”で対峙する、只々刺激的で高揚する時間でした。

昨年、マドモアゼル・シネマを主宰する演出・振付家の伊藤直子さんより、両者共演のご相談をいただきました。マドモアゼル・シネマの皆さんとは、毎年5月に二日間、神楽坂のまち全体を舞台に繰り広げられる『神楽坂まち舞台・大江戸めぐり』で三年間のお付き合いいただいています。2021年は津軽三味線×尺八×ジャズピアノ×ドラムス、2022年は十七絃(箏)、そして本年5月は邦楽囃子(小鼓・大鼓・太鼓・笛ほか)と、すべて器楽演奏とのコラボレーションに臨んでいただきましたが、今回はテキスト…言葉と共にある三味線音楽である浄瑠璃(義太夫節)です。様式や型が前提で“コテコテの”伝統芸能である義太夫節に、自由で抽象的な身体表現を旨とするコンテンポラリーダンスが果たして噛み合うものか、当初は大いに悩みました。そこで、神楽坂を通してご縁のある日本演劇研究者で明治大学情報コミュニケーション学部准教授・日置貴之さんにご相談し、監修と朗読部分の台本作成でご参加いただくことになりました。

検討の結果、浄瑠璃は『生写朝顔話』が選ばれ、抜粋して朗読部分と合せて約1時間、三部構成の作品となりました。深く刻まれたことは、作り込みのプロセスで、伊藤直子さん、そしてマドモアゼル・シネマの皆さんが、作品のテキスト一言一句を丁寧に読み込み、独自の解釈と共に身体表現として変換されていたことです。本来は、作品に対して人形や歌舞伎俳優が繰り返し上演を重ねることででき上った様式や型がある訳ですが、今回は、『生写朝顔話』という作品にコンテンポラリーダンスの方法で、マドモアゼル・シネマの方法で、イチから取り組み、新たな表現を創り上られたのです。

人形浄瑠璃や歌舞伎の舞台で観慣れていた『生写朝顔話』ですが、マドモアゼル・シネマの身体表現との対峙によって、浄瑠璃(義太夫節)の一語一語が今までに感じたことのないような、実にイキイキと、力を持った言葉として甦ったような印象を覚えました。

自らの体質とは異質の…しかも大きく異なる表現に歯車を合せる作業。今回これに費やされたエネルギーは並大抵のものではなかったことと思います。義太夫節という伝統芸能が、様式化された表現を受け継ぎ、生まれた時代とは価値観の異なる現代に「生きている芸能」として存在し続けるために、今回は不可欠の経験だったのかも知れません。

掲載写真 撮影:山之上雅信